現在、私たちの生活を取り巻く様々な電子情報媒体によって、過去千年以上もの間、情報媒体の中心を担って来た紙媒体は、その主役の座を明け渡しつつあります。情報伝達の速度、アクセス方法の多様さにコスト等、紙媒体では太刀打ちできない利便性が電子媒体の普及を後押ししています。その現象自体は多様なコミュニケーションの方法を生み出す可能性をもち、これからの情報媒体の中心を形作っていくことは間違いないでしょう。
しかし、だからこそ我々は今一度、長い人類の歴史の中で、時間を超えたコミニュケーションツールとして多種多様な形で発達、開発されて来た「紙をベースとした媒体」を見つめ直し、電子媒体では持ち得ない紙媒体だけが持ち得る意味や機能を再評価・再定義しておく必要があるのではないかと考えています。
紙媒体はその様式、構造、変質なども情報に取り込みながら時間とともに豊かな意味を抱え込んでいくことのできる興味深い情報伝達素材であり、本、新聞、雑誌に限らず生活のありとあらゆるところで現在も多様に存在し、情報伝達にとどまらない紙ならではの「意味」や「機能」を発揮しています。
インターネット対新聞や本対電子書籍というような単純な図式を見いだすのではなく、「意味を伝える」媒体の本質に迫る為に、学問的、創造的、技術的といったジャンルを貫いて人類の文化的発達に長年大きく貢献し続けて来た紙媒体の本質を広い視野で考えなければなりません。紙で作られた媒体には概念、言語、画像、映像、身体といった人間の基本的な表現活動をすべて内包する能力があり、人類の文化発達の大きなエネルギー源となり続けてきました。将来にわたっても電子媒体によってすべての紙媒体を置き換えるようなことはできず、紙はまだまだ死にゆくメディアではないのです。
ここに「日本紙媒体学会」(JSPBM)を創立する趣旨は、紙媒体そのものの意味や機能を問い直すという共通の問題意識に基づいて、自由な討論と闊達な研究・創作の場をつくり出すことです。閉ざされた学問的研究、限定された交流ではなく、開かれた視点に立つ総合的かつ実践的な思考─これこそ今日の文化的要請に応え、本質への問題提起を行うことになるのではないでしょうか。